宮澤英子個展「酒房なまらや」  

2005年5月3日(火)〜5月8日(日)  Gallery ART SPACEにて




ビールや焼酎、ワイン、日本酒、泡盛など、さまざまな種類の酒の瓶にオリジナル・デザインのラベルを貼ったもの計20本による展示をもとに、ギャラリーの一部を「小上がり」のようにして6日間限定の「居酒屋」を設営し、日替わりメニューの酒と肴を有料で出すという展覧会。
 
まず酒瓶だが、日本酒「おたま杓子」と「ぼろもうけ」「待ちぼうけ」「空とぼけ」の3点セット、焼酎「散歩時間」「くりくらべ」「野蛸」「雲まかせ」、ワイン「夜明け鶏」「雨色の日」、「FROG」3点セット、ビール「とっくにスタウト」「こっそりエール」「とっぷりエール」3点セット、くばの葉を模したものが瓶に巻かれて小さな紙性のリアルなバッタがとまった「飛虫皇」、作者が実際に見た夢を延々と綴った紙が瓶に巻かれた「夢の口なし」、丸い玉に紙を貼ったものを数個中に収めた梅酒風の「猫酒」「夜酒」の2点セットと、紙袋に茶菓子を入れた「蛙ごのみお茶受け」の3点セットといった、22〜40cm(梅酒瓶のみ17cm)のもので、多くは墨色を生かした和風のイラストレーションあるいは、淡くレトロと言ってもよい(「夜明け鶏」「雨色の日」のみ木版画の多色刷り風の鮮やかな色彩)、作者独特の世界が展開している。

 ところでこれらの酒瓶は、各壁面に取り付けられた木製の棚に固定されたが、瓶の下にはそれぞれの酒の由緒書きが、上方にはラベルのもととなった彼女の原画を白黒のみで表したものが瓶の背後の壁面に貼られ、あたかも酒屋の陳列あるいは居酒屋の内装を思い起こさせる。

 次に「居酒屋」スペースについてだが、これは 270×150cmほどの場所にビールケースを多数並べて置き、その上にコンパネを、一番上には「畳シート」を敷いて「小上がり」のような造りとし、その周囲には簾を天井から床まで垂らして部屋を区切ったものである。この「小上がり」の中央には直径50cmほどの小さな木の茶ぶ台を置き、ここで来場者は酒や肴を注文してひとときをくつろぐこととなる。そこで供される酒と肴は日替わりで、火曜日から順に焼酎−白ワイン−ビール−泡盛−赤ワイン−日本酒と続き、それぞれの酒に合わせて各日2種類ほどの肴が、最初は無料で2品目からは一つ300円、2品500円で、本物の居酒屋さながら作者自身の給仕で出された。
 
ところでこの「小上がり」では、壁際に木の板の棚が設営され、オリジナルのポスト・カード、双六、巾着が、壁にはTシャツなどが展示され即売された。
                                                       (ギャラリーアートスペースHPより)





◆出品作品


「雲まかせ」

だんだん酒がまわってくると、話すことが雲をつかむようになってくる。
確かにしっかりつかんだはずなのだが、たいていは一夜明けると雲散霧消している。
          「栗くらべ」

がらりと甘栗をひろげる。ふと、どの栗から食べたものかと考え始める。大きな栗、ゆがんだ栗、丸い栗、こげた栗、栗、栗。しまいにみんなして、おいらを食べてよね、とこちらを睨みはじめるものだから、かえって手がでなくなる。ついに今夜は甘栗を食べるのを断念する。
「朝露絞り 散歩時間」
夜明け前、まだ真っ暗な中を散歩に出て、だんだん明るくなっていくのを確かめながら、ちょっと立ちとまっては懐の酒をひと口呑む。ちょっと胸のあたりが温かくなって、また歩き出す。 夜が明けきらないうちに家に戻って、何くわぬ顔で1日を始めたい。




「飛蝗」
画面いっぱいに草むらを写した一枚の写真がある。ふと、草に一匹の飛蝗が止まっているのが目に入る。そのすぐ上にも一匹いる。その横にも二匹…。よく見ると一面の草むらには飛蝗がすずなりにとまっているのだ。この写真に切り取られただけでも数え切れない。実際には何万匹の飛蝗がいて、もしも一斉に飛び立ったら大変な騒ぎになるだろうところをじっとしがみついているその草を、風がざわざわと揺らしていく音だけが聞こえていたことだろう。その不気味な静けさと何万匹の飛蝗を思ったら、頭がくらっとした。